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    グラン・トリノ / Gran Torino
    ● グラン・トリノ / Gran Torino [アメリカ / 2008年]

    b0055200_20324767.jpg…完璧。うまく言葉で表現できないが、この作品に出会えたことが心から良かったと思えた。出会いが人を変えていく。その過程には笑いもあれば涙もある。エピローグに漂う不思議な優しさや温かさ。きっと観た人それぞれの心に何かを与えてくれる。本作の何もかもが愛しい。



    監督、製作、「ウォルト・コワルスキー」役には、「ミリオンダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド。「タオ・ロー」役には、ビー・ヴァン。「スー・ロー」役には、アーニー・ハー。「ヤノヴィッチ」役には、クリストファー・カーリー。「ミッチ・コワルスキー」役には、「ディパーテッド」のブライアン・ヘイリー。「スティーブ・コワルスキー」役には、「幸せのちから」のブライアン・ホウ。「カレン・コワルスキー」役には、「ロッキー・ザ・ファイナル」のジェラルディン・ヒューズ。「アシュリー・コワルスキー」役には、ドリーマ・ウォーカー。「デューク」役には、コリー・ハードリクト。「マーティン」役には、ジョン・キャロル・リンチ。「トレイ」役には、スコット・リーヴス。「ビュー」役には、ブルック・ジア・タオ。「スパイダー(フォン)」役には、ドゥーア・ムーア。「スモーキー」役には、ソニー・ビュー。「ウィリアム・ヒル」役には、ティム・ケネディ。「ユア」役には、チョウ・クー。

    "俺は迷っていた、人生の締めくくり方を。少年は知らなかった、人生の始め方を。"
    アメリカ、ミシガン州ハイランドパークに朝鮮戦争の帰還兵「ウォルト・コワルスキー」が住んでいる。月に一度「マーティン」のいる床屋へ行き、古くなった自宅を修繕し、愛犬「デイジー」を伴ってバルコニーで煙草を燻らせながらビールを呑む。長年フォード社で自動車工を務めた彼の一日は、そうして過ぎ去っていく。妻「ドロシー」に先立たれ、子供や孫たちとも疎遠、顔なじみだった隣人たちも去り、「ウォルト」は孤独だった。自動車産業発展期のハイランドパーク一帯の栄光を知る「ウォルト」にとっては、通りを練り歩くギャングたち、荒廃した住宅街、姿をかえた人間や街並みの全てが気にいらない。隣の家には、東南アジア系移民が越してきたようだが、そのことも鬱陶しい。かつて妻は「ウォルト」に懺悔を勧めたが、毎日のように訪ねてくる神父「ヤノヴィッチ」に告白することなど何もない。すべてが漫然だった。ある日、「ウォルト」宅のガレージに何者かが忍び込んだ。そこには彼の愛車"グラン・トリノ"が眠っている。「ウォルト」が今も大事に磨き上げているM1ライフルの銃口が捕らえたのは、隣家の少年「タオ」の姿だった…。


      タイトルの"グラン・トリノ"とは、アメリカの大手自動車メーカー、フォード・モーター・カンパニーが1968年から1976年にかけて生産販売したインターミディエイト、"トリノ"シリーズの一車種。1972年、"フォード・トリノ"シリーズのフルモデル・チェンジを受けて世に登場した"グラン・トリノ"は、当時のアメリカ自動車市場の中で大きな成功を収めた。本作には、ヴィンテージ・カーと位置づけられている"グラン・トリノ"の製造ラインでステアリングを取り付けていたのが他ならぬ「ウォルト」だった、という設定がある。また、"グラン・トリノ"に加えて本作における重要なキーワードは"モン族"である。ラオス、ベトナム、タイ、ミャンマーなど、東南アジア域に散在する少数民族のことだが、ベトナム戦争後、アメリカに移住した"モン族"には様々な苦難、苦境が待ち構えていた。それを乗り越えてきた逞しき"モン族"は"モン族"に演じさせたい、というイーストウッドの意向から、数多くのオーディションを経て、ビー・ヴァン、アーニー・ハーらに白羽の矢が立った。また、イーストウッドの息子である、スコット・リーブスが「トレイ」役で出演していること、カイル・イーストウッドが音楽を担当していることにも注目。

      「ミリオンダラー・ベイビー」の「フランキー・ダン」を彷彿とさせるような堅物「ウォルト」が、些細な出来事をきっかけに隣家のアジア系住民と心を通わせていくさまを描いたドラマ。哀愁が漂い、格調の高い趣を備えた作品ではあるが、思わず噴き出してしまうようなユーモアも伴っている。「ハリー・キャラハン」や「フランク・モリス」などの名役を演じつづけてきたクリント・イーストウッドが、俳優業最後の仕事とも語る。それが真の決断だとすれば、「ウォルト」という名の偏屈で頑固なじいさんが、彼のキャリアの集大成ということか。そこに抱く特別な感情は別にしても、本作は総じて完璧。もう私にとっては、これ以上ない宝物のような作品に出会ったような気分だ。

      「ウォルト」が唸り声を上げる。彼の子供や孫の内疎外親で滑稽な言動、行動。言葉の壁を超えた"モン族"とのコミュニケーション。こじんまりとしたコミュニティの中で出来事が展開されるにも関わらず、物語に壮大な奥行きを感じ得るのは、登場人物たちの心の移ろいが繊細に描かれているからであろうか。「ウォルト」の孤独感や近寄りがたさ、はたまた一見すると人種差別者かと思えるほど汚い言葉を口にしていた彼が、「タオ」や「スー」との出会いによって、次第にほぐれていくさまがありありと描かれている。その面白おかしい交流に思わず笑ってしまうことも少なくなかった。こうした温かいドラマが終盤に向けて暗調となっていくが、ハッピーエンドやバッドエンドという言葉では語れない不思議な余韻が身体を襲う。これぞ、イーストウッドの作品。ただ映像を追っても感泣ものだが、タイトルの"グラン・トリノ"が象徴するものとは、「ウォルト」がアジア人を毛嫌いする理由とは、「ウォルト」の愛用のジッポに刻まれている模様とは、「ウォルト」の懺悔とは、作品の節々に散りばめられたアイテムやエピソードの意味が解き明かされたとき、更なる哀歓がじわじわと滲み出してくる。

      ある意味では、近代のアメリカを包括的に象徴しているとも捉えられるが、実直でいること、相手を思い遣ること、人を愛すること、時代の変化を受け入れること。個人個人に人生のヒントのようなものを与えてくれるようにも思う。ピカピカに磨かれた"グラン・トリノ"が、「デイジー」を乗せて颯爽と駆けていく。優しくて温かい。本作の良さが言葉にし尽くせないことが悔しいが、私はこの作品に出会えたことが幸せとも思える。本作の何もかもが愛しい。ヒューマン・ドラマの傑作だ。
      
    ● 製作代表 : Matten Productions
    ● 日本配給 : Warner Bros.
    ● 世界公開 : 2009/01/09 - アメリカ
    ● 日本公開 : 2009/04/25

    (2009/06/02: 一部追記)
    (2009/06/05: 出演者情報追加)
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    by movis | 2009-05-31 20:50 | ドラマ