● 地獄の黙示録 / APOCALYPSE NOW [アメリカ / 1980年]
● 地獄の黙示録 特別完全版 / APOCALYPSE NOW REDUX [アメリカ / 2002年]
コッポラが全身全霊で完成させた映画史上屈指の戦争ドラマ。ベトナム戦争を描いた作品の中では、際立って切り口が斬新。だが賛否真っ二つに分かれよう。初作から22年を経て、コッポラ自身により再編集、シーンの追加が行われた特別完全版も存在する。
監督は、「ゴッドファーザー」シリーズのフランシス・フォード・コッポラ。「ウィラード」大尉役には、チャーリー・シーンの父親であるマーティン・シーン。「ウォルター・E・カーツ」大佐役には、「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランド。「キルゴア」中佐役には、「ゴッドファーザー」のロバート・デュバル。「クリーン」役には、「マトリックス」シリーズのローレンス(ラリー)・フィッシュバーン。「ルーカス」大佐役には、「インディ・ジョーンズ」シリーズのハリソン・フォード。「フォト・ジャーナリスト」役には、デニス・ホッパー。「シェフ」役には、フレドリック・フォレスト。「ランス」役には、サム・ボトムズ。「チーフ」役には、「24 TWENTY FOUR Season III」のアルバート・ホール。
"The Horror. . . The Horror. . . "
夏を迎えたサイゴン。うだるような暑さの中、ホテルに篭る特殊行動員「ウィラード」大尉に、情報指令本部からの出頭命令が届く。彼にはある任務が言い渡される。それは「戦略行動が不健全」だという理由による、第5特殊部隊作戦将校「カーツ」大佐の暗殺だった。「カーツ」大佐は輝かしいほどの最高経歴を持つ。「ウィラード」は心中複雑ではあったが、「カーツ」の行方を求めてベトナムの河川を上流に向けて突き進むのであった…。
戦争ドラマ、そしてベトナム戦争を舞台に描かれた作品は数知れない。その中でも、コッポラによるこの作品は他に類を見ない斬新な描き方をされている。戦争の悲惨さ、反戦を訴えるメッセージも込められているだろうが、それだけでこの作品は語れない。
ストーリーは、「ウィラード」の目線から主体的に描かれる。「戦争は良くないものだ」と、口にするのは簡単だ。ところが、戦場は混乱(カオス)を生む。上層部と戦地の温度差。頭を銃弾がかすめ、目の前で兵士が倒れていく。万が一、自分も戦火の真っ只中に立たされたなら、周りの全てか敵に見えるのではないだろうか。銃口から飛び出した弾丸が、唯一の存在証明だと思ってしまうのではないだろうか。グロテスクなシーンは少ないが、精神を乱される点で恐怖を覚えた。戦場に終始されている点で、マイケル・チミノ監督の「
ディア・ハンター」とも比較できない。
終盤に向けて、ストーリーは観念めいたいものに変わっていく。混乱、狂気が姿なき確信となって襲い掛かってくる。もはや、不安とか死への恐怖とは言い表せない。人間の精神、それこそ観念のようなものをコッポラは描こうとしたのだろうか。
完全版は、初作に未公開シーンを加え、エピローグのベクトルを変えた。そこでも賛否を呼んだ。「良かった、悪かった」では評価しがたい。コッポラが映画に込めたメッセージ。それを明確に読み取ろうとしても底が見えない。ワグナーの名曲「ワルキューレの騎行」だけが、はっきりと頭を巡っている。
● DVD
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