● 幸せの1ページ / Nim's Island [アメリカ / 2008年]
最近の映画では教えてくれない、今更なことを嫌味なく教えてくれる絵本のような作品。しかし、その恩恵を被るためには、余計な突っ込みはしないこと、無心に映像を楽しむことが必要。ジョディ・フォスターとアビゲイル・ブレスリンの暴れっぷりが作品の見所。
監督は、「小さな恋のものがたり」のマーク・レヴィン、ジェニファー・フラケット夫婦の共同。原作は、ウェンディー・オルーの『秘密の島のニム』。「アレクサンドラ・ローバー」役には、「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスター。「ニム・ルソー」役には、「幸せのレシピ」のアビゲイル・ブレスリン。「ジャック・ルソー」「アレックス・ローバー」役には、「オペラ座の怪人」のジェラルド・バトラー。
"Be the hero of your own story."
太平洋上のとある孤島、11歳の少女「ニム」は、海洋生物学者として名が高い父親「ジャック・ルソー」と共に、自給自足の生活を送っている。学校に行かなくてもいいし、トドの「セルキー」、トカゲの「フレッド」、ペリカンの「ガリレオ」がいるから寂しくない。そして、冒険小説に登場する「アレックス・ローバー」が憧れだった。ある日、「ジャック」が新種のプランクトンを採取するため、島を離れた矢先に近海を嵐が襲う。心細い「ニム」は父親のパソコンの1通のEメールに目を向けた。送信者は、なんと憧れの「アレックス・ローバー」。「ニム」は彼に助けを求めた。ところが、そのメールは「アレックス・ローバー」が登場する冒険小説の著者「アレクサンドラ・ローバー」が、執筆に行き詰まり、「ジャック」に協力を求めて送信したものであった。加えて彼女は極度の潔癖症で家を出られず、門前のポストに辿り着くのもやっと。「ニム」のSOSに呆然とする彼女は…。
自分が描く冒険小説のヒーローとは対象的に、極度の潔癖症で外出もままならない、頼らない「アレクサンドラ・ローバー」と、父親と孤島で暮らす逞しい「ニム」の交流を描く。原作『秘密の島のニム』のファンだという、ジョディ・フォスター、アビゲイル・ブレスリン、ジェラルド・バトラーが、オーストラリア・クイーンズランドの自然を舞台に"冒険"を表現した。
どうも様子がおかしいと思ったら、トドがツリーハウスでリズムを刻んでいるし、女の子はトカゲを抱いてベッドに潜り込んでいた。リアリティとは一線を画して突っ走るファンタジー作品だということはプロローグからも読み取れる。サスペンスやドラマを好んで観賞してきた。だから、前後関係を整理しようと躍起になっていたのだが、そんな自分が滑稽に思えた。もしも、小学生の頃にこの作品に出会っていたなら、作品の価値は星のようにキラキラと輝いたかもしれぬ。
現実的な突っ込みがナンセンスな本作の見所は、ジョディ・フォスターとアビゲイル・ブレスリンの暴れっぷりにある。英知と勇気で戦況を引き裂くような性格は影を潜め、コミカルな役を与えられたジョディ・フォスターは楽し気だ。極度の潔癖症で、消毒アルコールは必須。変身願望もあるにはあるが、クモ1匹にヒステリックな女性「アレクサンドラ」を堂々と演じ上げた。「リトル・ミス・サンシャイン」や「
幸せのレシピ」では、人間関係に敏感で繊細な演技を求められてきたアビゲイル・ブレスリンも、ムシを調理するは、トカゲをぶん投げるは、文字通りの大暴れである。嵐を耐え抜き、島を私利私欲から守り抜こうとする「ニム」の純心がまぶしい。優しい父親「ジャック」と力強い「アレックス・ローバー」を演じ分けたジェラルド・バトラーの存在感も敵わない。
自然や生き物は大切に、などということをストレートに語る映画を最近観ないような気がする。本作は恥ずかし気なく嫌味なく、そういった教えを説き、そしてアウトドア志向である。ロケーションがユネスコ自然遺産に数えられるクイーンズランドということもあって、風光明媚な映像が自然尊重に対する何よりの説得力だ。しかし、本作では外に引っ張り出されるのが、TVゲームに興じる子供というわけではなく、良い歳をした女性であるわけである。ストーリーはハチャメチャだ。
こうして作品は、プロローグからエピローグまで一貫して映像のジュブナイルとなり得た。まるで絵本であるが、「ニム」の語りで物語がはじまるあたり、製作の意図とも思える。結局のところ、『なぜ』『どうして』を自問して観賞してしまったが、子供のように、めぐる映像をただ楽しめばなかなか愉快な作品だろう。ただ残念なのは、邦題か。原題"Nim's Island"のままのほうが、よっぽどワクワクするのに…。
● 製作代表 : Walden Media
● 日本配給 : Kadokawa Pictures
● 世界公開 : 2008年04月03日 - オーストラリア
● 日本公開 : 2008年09月06日