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    ゆれる
    ● ゆれる [日本 / 2006年]

    ゆれる_b0055200_0463756.jpg出口がない、絶望的で憂鬱な作品であった。描かれる人物の心的葛藤を前に、観る側の心も揺さぶられてしまう。"羅生門スタイル"という手法の選択にテーマが隠れているようにも思える。他人が何を考え、想うのか。そこに完全な理解は存在するのであろうか。



    監督は、「蛇イチゴ」の西川美和。「早川猛」役には、オダギリジョー。「早川稔」役には、香川照之。「早川勇」役には、伊武雅刀。「川端智恵子」役には、真木よう子。「岡島洋平」役には、新井浩文。「早川修」役には、蟹江敬三。「丸尾明人」役には、木村祐一。

    "あの橋を渡るまでは、兄弟でした。"
    母親の一周忌であるにも関わらず、写真家「早川猛」の表情に悲壮感は見られなかった。道中、父親である「勇」と実兄である「稔」が経営するガソリンスタンドに立ち寄った「猛」は、そこで働く一人の女性に目を留めた。声をかけるキッカケが見つからず、ふてぶてしく古びたエンジンを始動させる「猛」。その女性もドアを叩こうと拳をつくったが、空に上げたままだった。「稔」は、後片付けを進めながら「猛」と思い出話に華を咲かせた。幼馴染の「智恵子」がスタンドを手伝ってくれている、と報告する「稔」は、かつて母親に連れられた渓谷に3人で出掛けようと提案して…。


      カタルシスが得られず、救いのない、ある意味では重厚な作品であった。これは完全に意図されたもの。解釈を観る側に丸投げしてしまう、という西川美和の意地が悪く、大胆な演出である。

      唯我独尊を貫きながらもどこか満たされない「猛」に、実直であるが人間関係に不器用な「稔」を演じた、オダギリジョーと香川照之の演技力が抜群に映えている。それぞれの強い個性を薄めることなく、至極ニュートラルに、人間らしく「早川」兄弟を表現した。セリフの一言一句にまで頑固が表れる「勇」を演じた伊武雅刀や、虚無に打ちひしがれ淡々と生きる女性「智恵子」を演じた真木よう子など、助演陣の表現も巧い。人間の、延いては日本人独特の、閉鎖的であり、乖離的な心理が優秀に映像化されている。

      作品はこうした演者の力を得て、小規模でありながらも、ひとつの出来事を複数の視点で見せて理解を乱す"羅生門スタイル"で進行していく。物語が従えたサスペンスを、この手法で描いた点が良かった。他人が一体、何を考え、想うのか。その完全なる理解は不可能である。人はそれを知っている。知っているが、理解を求めるし、理解を試みる。場所や思い出などの共通認識を以って、自分自身を確認し、安心を得る。こうした心的葛藤を包み隠さずに主張するので、作品は絶望的でメランコリックだ。そして、観る側の精神もまた"ゆれる"のである。

    ● 製作 : TVMAN UNION
    ● 配給 : シネカノン
    ● 公開 : 2006年5月24日 - フランス(カンヌ国際映画祭)
    by movis | 2008-03-06 00:52 | 邦画