● 麗しのサブリナ / Sabrina [アメリカ / 1954年]
サミュエル・テイラーの人気舞台作「サブリナ・フェア」の映画化作品。「ローマの休日」とは異なるオードリー・ヘップバーンの魅力がある。人情の温かさがあり、恋愛の切なさがあり、絶妙な配役と彼らの素直な演技は、本作をセンスのいい爽やかなロマンスに仕立てた。
監督は、「サンセット大通り」「情婦」のビリー・ワイルダー。「サブリナ・フェアチャイルド」役には、「ローマの休日」「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーン。「ライナス・ララビー」役には、「カサブランカ」「脱出」のハンフリー・ボガート。「デヴィッド・ララビー」役には、「ワイルドバンチ」「タワーリング・インフェルノ」のウィリアム・ホールデン。「トーマス・フェアチャイルド」役には、「情婦」のジョン・ウィリアムズ。
"All's fair in love . . . with Sabrina Fair and her men!"
ロングアイランド北岸に構えられたララビー家の大豪邸では、大勢の使用人が雇われていた。その中に、ララビー家のお抱え運転手である「トーマス・フェアチャイルド」の娘である、「サブリナ」という名前の女の子がいる。彼女は、ララビー家の次男である「デヴィッド」に恋をした。ダンスパーティが開催された夜、彼女は木の陰からそっと様子を窺う。そこには、銀行家と令嬢と楽しそうに時を過ごしている「デヴィッド」の姿があった。「トーマス」は、嫉妬に駆られる「サブリナ」の気持ちを察し、彼を諦めさせるためパリにある料理学校への入学を勧める。しかし、「サブリナ」は父親の気持ちをよそに遺書を認めて…。
原作は、サミュエル・テイラーが描いた演劇「サブリナ・フェア」であり、彼は本作の脚本にも携わった。この舞台をブロードウェイで観賞し、感銘を受けたオードリー・ヘップバーンがパラマウントに対して映画化企画を売り込んだ、という説話が残っていることでも有名である。本作で「サブリナ」演じるオードリー・ヘップバーンが着用した、ふくらはぎ丈のパンツが当時の女性たちの間で流行となり、"サブリナパンツ"という文化まで生んだ。これを証明するように、衣装デザインを担当したエディス・ヘッドが1954年度第27回アカデミー賞にて衣装デザイン賞(白黒)を受賞した。本作はハリソン・フォードやジュリア・オーモンドを迎え「サブリナ」というタイトルでリメイクされた。
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ローマの休日」と、これに続いた本作が話題となり、オードリー・ヘップバーンはその可憐な容姿もあって、日本でも高い人気を誇った。王女という役柄であった前作とは異なって、運転手の娘という庶民的な「サブリナ」を演じた彼女であるが、両役には違った魅力がある。どちらにしても、彼女は喜怒哀楽を女性らしい表情や仕草で演じ上げているわけであるが、そのメリハリたるものは、「サブリナ」のようなお転婆で活気ある役柄のほうが、より明白に見ることができると思う。オードリー・ヘップバーンが"天使"と称される由縁は、この作品を観賞するだけでも納得がいく。
サミュエル・テイラーの脚本担当もしかり、作品は総じてロマンスの様相を呈していくのだが、コメディのような面白みを見せてくれるのは監督ビリー・ワイルダーの業であろう。マルセル・ダリオがカメオ出演しているパリの料理学校のエピソードや、気に入った女性をテニスコートに呼び出す「デヴィッド」がこっそりシャンパングラスを仕込むエピソードなどが楽しい。ここまでは、オードリー・ヘップバーンの演技に言及してきたが、本作がしっかりとした作品となっている理由は、彼女ばかりでなく、ウィリアム・ホールデンやハンフリー・ボガートといった主演格や、ジョン・ウィリアムズはじめに助演格が真面目に役を演じ切っているからに他ならない。彼らの演技に対する素直さが目に見えて印象的であった。
作品はセンチメンタルを伴って、当初の期待を裏切るような結末を迎えていくわけであるが、この展開を考えれば配役は絶妙であったと思う。人の温かさ、恋愛の切なさがありありと描かれた爽やかな傑作ロマンスのひとつである。
● 製作代表 : Paramount Pictures
● 日本配給 : Paramount Japan
● 世界公開 : 1954年09月09日 - イギリス(ロンドン/プレミア)
● 日本公開 : 1954年09月28日