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    ハッピーフライト
    ● ハッピーフライト [日本 / 2008年]

    ハッピーフライト_b0055200_6101999.jpg航空業界というテーマを選らんだ邦画の中では際立ってオーセンティックな作品。突出した派手さはないが、航空業務のスペシャリストたちの魅力がしっかりと、されどコミカルに描かれている。群像劇を無駄なく描き、細部まで緻密に作り込まれている点に感化された。



    監督は、「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖。「鈴木和博」役には、田辺誠一。「斎藤悦子」役には、綾瀬はるか。「原田典嘉」役には、時任三郎。「田中真里」役には、吹石一恵。「木村菜採」役には、田畑智子。「山崎麗子」役には、寺島しのぶ。「高橋昌治」役には、岸部一徳。他キャストには、笹野高史、菅原大吉、田中哲司、ベンガル、田山涼成、正名僕蔵、藤本静、平岩紙、中村靖日、肘井美佳、森岡龍、長谷川朝晴、いとうあいこ、森下能幸、江口のりこ、宮田早苗、小日向文世、竹中直人、木野花、柄本明ら。

    "ヒコーキ、飛ばします。"
    全日本空輸の若手キャビン・アテンダント「斎藤悦子」は、いよいよ初めての国際フライトを担当する。彼女の期待は膨らむ一方であったが、同期から「悦子」と同じフライトに厳しいキャビン・アテンダント「山崎麗子」が同乗することを知らされる。機長への昇格がかかったOJT修了を目前に気を引き締める「鈴木和博」。フライトシュミレータでの訓練結果は散々たるものであったが、教官となる機長は審査が易しいことで有名だ。ところが、突然、担当が威圧感を醸し出す「原田」という機長に変更されたのであった。オンタイムフライトを目指すように、と上司に叱咤されたグランド・スタッフの「木村菜採」は、変わり映えのしない毎日と、マイペースな後輩の教育を担当していることに辟易としている。またしても、クレーム対応に呼び出しを受ける。その頃、スポットでは整備士たちが駐機している"B747"のメンテナンスに大忙しだ。彼らの目的は同じ。東京羽田発ホノルル行きのチャーター便、1980便を安全に、快適に航行させること…。


      「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」では若者の青春を瑞々しく描いた矢口史靖が、今度は航空業界に焦点を当てた。もともとは"エアポート"シリーズのような、ドラマやパニックを盛り込んだ作品を構想していたが、取材を重ねるうちに、航空会社スタッフたちの日常は、非現実的なストーリーよりも面白い、ということに気付いたのだという。作中には、バード・ストライク(鳥が航空機の離発着に支障となるアクシデント)を防止するバート・パトロール、通称「バードさん」役をベンガルがコミカルに演じているが、矢口が、彼の姿を取材協力者のイメージに重ねている、と語っているところにも、本作の動機が表れている。全日空の全面協力を受けて、彼は航空スタッフの群像劇を描いた。

      航空業界を舞台とした群像劇といえば、私的にお気に入りの「大空港」を浮かべるが、突き抜けるような派手さはなく、代わりに安心して観賞できる易しい作品であった。何より特徴的であるのは、1便の航務に焦点を当てて、数ある職務の関わりをバランスよく、されど細部まで緻密に描いている点だ。"ハンガーではペン1本すら失くしてはいけない"ことやロード・ファクター向上のための座席アサインの最適化など、目からウロコな航空トリビアも散りばめられている。

      グランド・スタッフ「木村菜採」とキャビン・アテンダント「田中真里」の衝突、という印象的なシーンがある。彼らスタッフの使命は、航空機の安全・快適・定刻運航の遵守であることは間違いないが、それぞれにテリトリーを持っていて、実は相互の業務を良く良くと知らない。矢口の語る"航空業界の面白さ"というのは、おそらくこういったクラムジーな人間関係にあるのだろう。

      こうしたシュールな世界を描いておきながらも、作品がドラマとしてもコメディとしても成立し得るのは、演者がそれぞれに与えられた役に成り切っていることで人間味のある温かい雰囲気が醸しだされているからか。だらしなく見える「高橋昌治」がここぞで見せる頭のキレ、愚痴の多い「木村菜採」の一生懸命さ、頼りない「鈴木和博」や「斎藤悦子」が発揮するポテンシャルなど、登場人物の持つ二面性が憎い。

      彼らのテンションをシンクロさせる、ある意味では抑制させることで、特定のヒーローやヒロインは不在だが、誰が欠けてもダメだろうなと思わせる。飄々としている作風であるものの、序盤でスタッフ同士のぎくしゃくとした関係を見せておきながら、結末に向けては暗黙的に団結感、統一感を見せてくる手口が非常に巧妙かつ爽快であった。

      ともすれば"飄々としている"その性格と、予定調和を踏み外さない古典的なストーリーがあって、宣伝広告が煽る期待に真っ向から応えられているかどうか怪しいところではあるが、数々のエピソードをコンパクトにまとめあげたバランスとディテールへのこだわりには感化された。少なくとも、航空業界というテーマを選んだ邦画作品の中ではオーセンティックな作品として際立っていることは間違いない。ハメを外さない範疇の中で、描かれるべきものがしっかりと描かれた精巧なドラマであった。

    ● 製作代表 : アルタミラピクチャーズ
    ● 日本配給 : 東宝
    ● 世界公開 : 2008年11月15日 - 日本
    ● 日本公開 : 2008年11月15日
    by movis | 2008-11-22 06:26 | 邦画